深崎暮人展で感じたこと
『冴えない彼女の育てかた 深崎暮人展』(以下、深崎展)という展示会がありました。
イラストレーターの深崎暮人先生が原画を担当したラノベ『冴えない彼女の育てかた』のイラストを集めた企画展です。
会期を過ぎたので、ネタバレを含む感想にならないなにかを書いていこうと思います。
まず、深崎展というものは、5年間をかけて深崎先生がイラストを通じて表現してきた『冴えカノ』を、完全に計算された展示配置によって来場者にヒントを与え、来場者自らに気が付かせることで、今までイラストに対して感じていた「意味」や「美」だとか、そもそもの作品に対する「冴えカノ感」だとかを再構築するアトラクションだと思っています。
もちろん、来場者が安芸倫也の体験を共有し、『冴えカノ』を回想する展示会でもあるのですが。ただ、安芸倫也の体験を共有してしまうのは非常に危険で、展示を巡回していると来場者=主人公のように錯覚できてしまうのですが、主人公気分で順路の一番最後に展示されている(加藤恵と安芸倫也の)イラストを目にしてしまうと、その主人公=来場者は失恋ENDです。
すなわち、
「たくさんのということです。ユーザーのためじゃない、
たった1人の……安芸倫也くんだけの、
メインヒロインに、なれたかな……?」
Ⅰ. LOVE iLLUSiON -introductory chapter-
introduction:序説『冴えカノ』という作品は、熱血創作バトルものでありながらも、主題は加藤恵をメインヒロインにするラブコメだと思っています。なので、最終巻刊行・アニメ2期終了という節目を迎えた『冴えカノ』の展示会において、キービジュアルに加藤恵が選ばれるのは当然であり、最初に展示されているイラストもキービジュアルか加藤恵だろうと予想していました。
しかし、実際に展示されていたのは、波島出海と氷堂美智留のイラストでした(BD/DVD「冴えカノ♭ 2」ジャケット)。
あぁこの企画展は『冴えカノ』なんだと思いました。
小説の表紙を思い出して。
本当に来てよかったと思いました。
まぁ、その隣にはキービジュアルがありましたが。
キービジュアルについては語りたいことが山のようにあって、実際に山になったので、記事の最後にまとめました。
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Ⅱ. 饒舌スキャンダラス
このあたりから、なんかやべー展示会に来てしまったなと感じ始めます。FD / 10巻 / 13巻という挿絵の並びを見たあたりで、胃薬を飲みます。
そして……
黒ストです。黒ストがあったんです!!!
本当です。
霞ヶ丘詩羽が脱いだばかりの黒ストがソファに掛けてあったんです!!!!
解説:不死川書店の一室を再現したコーナーがあり、そこにはテーブルとホワイトボードとソファがある。テーブルには『冴えカノ』全巻と「恋するメトロノーム」(中身は『甘城ブリリアントパーク』)が並べてあり、ホワイトボードにはソフマップ♭全巻購入特典の霞ヶ丘詩羽イラストが貼られている。ソファには黒ストがあった。
たぶん触ってないです(倫理観)。
霞ヶ丘詩羽ゾーンは「霞詩子先生へ 柏木エリ」と書かれたサイン色紙の展示で終わります。
このサイン色紙が存在するまでのストーリーは、blessing softwareが結成する以前、霞詩子と柏木エリの出会いに遡るわけで、
つまり、霞ヶ丘詩羽の展示の一番最後に一番最初を持ってきたということで……
どうにかなってしまいそうだった。
Ⅲ. Blooming Lily
まずは、リトラプ色紙と「あの雪のプリズム」らしき同人誌の原稿&ネームでジャブを打ち込まれます。続いて、ラフスケッチや雲雀ヶ丘歌穂キャラクターデザイン……同人イラストレーター・柏木エリの創作活動の記録等々。
同人誌のショーケースを一周回って、同人誌コーナーにある「cherry blessing」の同人誌が、実は柏木エリによって描かれたものではなく「cherry blessing ~巡る恵みの物語~ Prologue 紅坂朱音」であることに気が付き、呼吸が苦しくなってびひゅおうおうおうおうおうびゅうおうおうおうおうおう。
ところで、英梨々のイラストだとBD/DVD「冴えカノ♭4」のジャケットが大好きです。このジャケットで英梨々はどてらを羽織っているんですけど、どてらって「倫也が側にいると描けない」英梨々の象徴じゃないですか。その英梨々が魔法のほうき(絵筆)に乗って誰よりも上(世界一のイラストレーター)を目指すわけですから。
ちなみに、古のオタクなので、キャラデザはダントツで英梨々がTOPです。したがって、英梨々ゾーンは深崎展で一番の幸せ空間です(と思っていた時期が俺にもありました)。後続のパケットを回避しながら同人誌コーナーを3周ぐらい周回したあと、流石に次に行こうと思って、一歩、一歩、進む足跡に花咲かせます。
やはり「柏木エリ先生へ 霞詩子」と書かれた色紙が展示されいていて、英梨々ゾーンは終わりかなって思うじゃないですか。
順路からだと死角になっているんですよね~~~。
豊ヶ崎学園第二美術準備室。
膝から崩れ落ちる人。真顔になる人。花粉症のフリをする人。うめき声を漏らす人。その場でぐるぐる歩き回る人。すべて俺。
本当にもうなんてことをしてくれたんだという感じで感謝の気持ちでいっぱいです。
だって、那須高原の7枚と美術準備室の覚醒イラスト
新生・柏木エリのすべてがそこにはあって……
しかもそこは、詩羽が初めて英梨々の絵を見た場所で、
美術準備室で叶巡璃を描く英梨々と、それを見守る詩羽もいて。
感情が爆発してしまうのはもう当たり前すぎることで。
かなりの時間を要してなんとか歩ける程度まで回復し、美術準備室を抜けようと身体を向けた先に、イーゼルがあったのですが、
そのイーゼルに掛けられていたのは……
「もちろん、これからだって地獄は見るわよ……
けど、楽しい地獄にしてみせる」
「だってあたしにとって、絵を描くことは……
もう復讐でも、意趣返しでもないから」
Ⅳ. Daydreamer
ギターがありました。氷堂美智留が使用する赤いギターです。深崎先生の私物なんでしょうか。美術準備室に置いてあった安芸倫也の黒縁メガネはたぶん深崎先生の私物です(倫也のシンボルを美術準備室に置くのは~~~っ!)。
そして、思っていたよりも挿絵の枚数があって驚きました。blessing software には加藤恵の次に長く所属しているんですね。
Ⅴ. 365色パレット
小倫也(しょうともや)こと波島出海。8巻の挿絵は3巻挿絵の倫也と同じ構図だったんですね(パンフレット参照)。欲を言えば、rouge an rougeのサークルポスターやリトラプファンブックのような、同人イラストレーター・波島出海の活動も見たいところでした。
Ⅵ. DOUBLE RAINBOW DREAMS
だってさ、お前の絵ってこんな感じだろ。 ―紅坂朱音アニメでは部分的にしか見ることができなかった紅坂朱音のイラストを、7枚の後で見せられて、崩れ落ちない人がいるんですか?アニメを見ていなかった人、生きていますか?
紅坂朱音というキャラクターが好きです。もしかしたら、『冴えカノ』で一番好きかもしれません。アニメ♭までしか見ていない人は小説を読んでください。彼女は絶対悪ですか?命を削ってクリエイターであり続ける神は、竜虎が倒す目標であり、そして創作を体現する……深崎展の話に戻ります。
ドラマガ表紙 / ・・・何枚もの二人の挿絵・・・ / GS表紙 という展示がありました(ドラマガ=ドラゴンマガジン2014年1月号)。
二人の好敵手としての関係を感じる表紙と、霞ヶ丘詩羽の「自分は、柏木エリの影になる」という決意を感じる表紙に挟まれた、柏木エリ&霞詩子の勇姿。
二人は、こつんと、互いの拳を突き合わせた。
Ⅶ. M♭
学園ラブコメ始まったな。って感じです。倫也と加藤恵のイラストが集められているパネルがあるんですけど、甘すぎて。
白いワンピース+赤いカーディガンなメインヒロイン・加藤恵イラストが並べてあるコーナーがあるのですが、よく見ると白ワンピが微妙に異なります。加藤恵も人間なので一年も経てば服は変わるんですが、その服がフリルが付いたりしてオタク受けするようになってるのは……そういうことでいいんですよね?
あとは、1巻と13巻の口絵の対比でしょう。
まぁこれは流石に小説読んだときに気がついていたので顔面に一発パンチくらったぐらいでダメージは少ないんですが、凄いなあ。
ここで凄いというのは、もちろん1巻と最終巻で同じ構図というのもそうなんですけど、それは私も思いつくのできっとそういうように描くんですが(?)、例えば探偵坂でない方の口絵だと1巻で♭な表情をしている加藤恵が13巻ではちょっと#な笑顔になっているところだとか、ちょっとした変化を丁寧にイラストに落とし込んでいるところなんですよ。そして、その変化している部分から読み取れることが作品にとって重要なことで、だからこそ対比させることに意味があるんですよね。……逆に1巻で少しも笑ってないの凄すぎるぞ加藤恵。
Ⅷ. ETERNAL♭
恵&英梨々のコーナー。ひとつだけ言いたいことがあって、
7巻の絶交シーンとGS2巻の仲直りシーンを上下に配置するのはやり過ぎなんじゃ、ないかなぁ……っ
なんか、ぜんぜん、まちがって、ないかなぁ……っ!
Ⅸ. LOVE iLLUSiON -closing chapter-
「BD/DVD冴えカノ店舗共通全巻連動購入特典」を左に、「BD/DVD冴えカノ♭店舗共通全巻連動購入特典」を右に、横一列に並べてください。
……………………まだ、息していますか?
背中合わせの恵と英梨々、向かい合わせの倫也と詩羽。 でも、倫也の視線は恵を向いていて、 そんな倫也を見つめる詩羽は儚げな笑顔で、 英梨々~~~っっっ、 恵はいつもどおり♭で。
発表時期が異なる2枚の絵を並べたときに、それが1枚の絵として意味を持つって凄くないですか。それぞれが1枚の絵として完成しているにもかかわらずです。本当に展示会に来て良かった。
ところで、深崎展描き下ろしイラスト(B2半裁タペやアトレ秋葉原の壁面になっているイラスト)の氷堂美智留って、加藤恵の「また…私を、誰もが羨むようなメインヒロインに、してね?」な敬礼(8巻表紙)と同じポーズをしていておおおおおお前お前お前となってしまったのですが、♭連動購入特典では波島出海がメインヒロイン敬礼していたんですね。
あと、これは今気がついたことなんですけど、描き下ろし波島出海のダブルピースを1期連動購入特典で氷堂美智留がやっているので、深崎展描き下ろし波島出海&氷堂美智留は連動購入特典イラストが元ネタだったんですね。二人とも楽しそうでなによりです。この二人がつらそうだと『冴えカノ』は救いがないほどしんどくなってしまうので、これからも楽しく創作やっていて欲しいと心から願います。
おや、どこからか加藤恵の香りが……(ファブリックミスト)
Ⅹ. GLISTENING♭
俺たちの運命の分岐点には、いつも桜が舞う。しやわせに、なろうね?
深崎展のキービジュアルが本当に凄いという話
最後に、深崎展のキービジュアルについて語ります。キービジュアルは、加藤恵を(リアルの)メインヒロインにした『冴えカノ』1巻から13巻までを代表するに相応しい天才的なイラストです。
理由1:構図が凄い
キービジュアルの横を向いて目をつむる構図は、那須高原の7枚を超えた先にある、美術準備室で描かれた覚醒イラスト(叶巡璃)の構図そのものです。すなわち、ここに、「ゲームの中でのメインヒロイン・叶巡璃」と「リアルのメインヒロイン・加藤恵」の関係があります。
理由2:モチーフが凄い
まず、加藤恵の服装に注目してください。 加藤恵は制服を着ています。次に、加藤恵の身体から離れて桜吹雪に舞っているものに注目してください。 赤いカーディガンと白いベレー帽です。 この衣装はゲームのメインヒロインの象徴ですよね。
「ゲームの中でのメインヒロインとしての加藤恵」から「リアルのメインヒロインとしての加藤恵」までを切り取った奇跡のような一枚であると言えます。
理由3:本当に凄い
実はもともと、加藤恵が制服を着て赤いカーディガンを羽織っている絵があります。 13巻(最終巻)の表紙です。 13巻を手にしたときは全く気が付かなかったのですが、これ以上に最終巻を飾るに相応しいイラストはないでしょう。ところで、1巻の表紙を覚えていますか? 英梨々です。制服姿の英梨々が緑のジャージを羽織っている絵が表紙です。
わかりますか。
ということを、深崎展1周目、会場を出る直前で、入場口にあるキービジュアルを振り返ったときに気がついて、限界になりました。
おしまい。